L-FABPの有効性

【AKI】ICU入院患者の重症化リスクの判別に

Key word:AKI(急性腎障害)、心腎連関(Cardiorenal Syndrome)

14日間のmortality(死亡率)のROC分析


(文献[1]内、Doi, K. et al., Crit Care Med. 39(11), 2011.内Fig.3より一部改変)

方法:

ICU(集中治療室)入院重症成人患者339例に対し、入室時の段階でL-FABP、NGAL(未承認品)、NAG、アルブミン、血清クレアチニンについて測定し、14日間のmortality(死亡率)についてROC曲線に示した。
※339例中、14例(4.1%)がICU入室後2週間で死亡した。

結果:

ROC曲線下面積(AUC-ROC)
L-FABP0.896
NGAL(未承認品)0.827
NAG0.664
アルブミン0.717
血清クレアチニン0.733

尿中L-FABPは薬剤性腎障害、敗血症、多臓器不全などの患者において、ICU入室時の段階で、治療転帰を含めた重症化リスクを高精度に判別できる。

2012年3月、腎疾患に関する国際的なガイドライン策定を目指して設立されたKDIGO (Kidney Disease: Improving Global Outcomes) からAKI (Acute Kidney Injury; 急性腎障害) 治療に関するガイドライン、KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury[2]が発表された。今回のガイドラインでは、血清クレアチニン(sCr)と尿量によっ て規定されてきた既存のAKIクライテリアを尊重しつつも、特に集中治療室(ICU)における敗血症が誘引するAKIの場合は、クレアチニン産生量自体の低下が懸念されることから、sCrによるAKI診断性能の過小評価と、より早期のAKI診断に適したバイオマーカーの必要性が指摘されている。

新しいバイオマーカーを臨床活用しようとする場合、個々の指標についてはその診断精度が各国規制当局の承認しうる水準である必要がある。以下に、近年国際的に臨床評価が進んでいる項目のうち、米国ではFDA、欧州ではCE marking、そしてわが国では厚生労働省から体外診断用医薬品として承認を取得、または申請中の診断指標を示す。これら5項目をAKIのいわゆるfive biomarkersとして取り上げた総説[3]が、上述のKDIGOガイドラインにおいても紹介されている。

  • Neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL)
  • Cystatin C
  • Interleukin 18(IL-18)
  • Kidney injury molecule-1(KIM-1)
  • L-type fatty acid binding protein(L-FABP)

本邦における、これら項目の診断性能を比較した臨床データの一例を示す3)。339例のICU入院患者を対象として、尿中L-FABPと他の尿中測定項目とを比較した。ICU入室時にAKIを発症していない274例のうち66例が入室1週間以内にAKIを発症した。その際、発症前の入室時の尿中指標を多項目測定し、その後の発症予測性能を比較した。その結果、尿中L-FABPが、既存診断項目であるNAG、アルブミン、および近年早期AKIバイオマーカーとして報告のあるNGAL、IL-18(いずれも2012年7月時点で薬事未承認品)に比し、早期診断性能に優れていることが示された。

さらに、339症例全てを対象とし入室2週間以内の死亡率予測についても、ICU入室時における尿中指標を多項目測定し比較した。その結果、尿中L-FABPはROC曲線下面積=0.90という非常に高い精度を有し、NAG、アルブミンに比し有意に診断性能が優れていることが明らかとなった(図)。

以上のようなエビデンスに基づき、中央社会保険医療協議会(中医協)資料中にも、「AKIが確立されていない、薬剤性腎障害、敗血症または多臓器不全等の患者を対象として、治療転帰を含めた重症化リスクを判別する」という尿中L-FABPの有用性が記載されている。

参考文献

  • [1] Doi, K. et al., Evaluation of new acute kidney injury biomarkers in a mixed intensive care unit. Crit Care Med. 39(11): 2464-2469, 2011. PubMed
  • [2] KDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes) https://kdigo.org/guidelines/acute-kidney-injury/
  • [3] Moore, E., et al., Biomarkers of acute kidney injury in anesthesia, intensive care and major surgery: from the bench to clinical research to clinical practice. Minerva Anestesiol. 76(6): 425-440, 2010. PubMed

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