微小循環障害(虚血)の判定に
Key word:微小循環(microcirculation)、虚血ストレス
尿中L-FABPの排出機構:
L-FABPは、ヒト腎臓(健常人)の近位尿細管の細胞質に豊富に存在する分子量約14 kDaの脂肪酸結合蛋白である。ヒトfabpl遺伝子発現は主に肝臓、腎臓、大腸で確認されており、その転写調節領域には、hypoxia-inducible factor 1(HIF-1)、hepatocyte nuclear factor (HNF-4, HNF-1)、peroxisome proliferator-activated receptor (PPAR)などの虚血や脂質代謝に関わる転写因子の結合領域が存在している。
ヒト正常腎では近位尿細管の細胞質に局在しているL-FABPが、虚血や酸化ストレスに応答して速やかに管腔内へ排出されることが実証された(図A-3)[1]。
A-1 非侵襲的CCDビデオ撮影
方法:
ヒト生体腎移植時の腎再灌流直後における尿細管周囲血流を、非侵襲的CCDビデオ撮影により計測し、同時に採取した初尿中の診断指標と比較した(図A-1)。
結果:
尿中L-FABPは尿細管周囲血流(の減少)と非常に高い相関 (R =0.933, p <0.0001)を有しており、既存の尿検査項目(NAG, α1MG, β2MG)とは異なる機序により、尿細管障害を鋭敏に検出できることが明らかとなった(図A-2)。
A-2 ヒト尿細管周囲血流と尿中L-FABPとの相関
(文献[1]内、Yamamoto, T. et al., J Am Soc Nephrol. 18(11), 2007.内Fig.1より一部改変)
A-3 L-FABPの局在(腎生検のL-FABP免疫組織染色)
腎生検のL-FABP免疫組織染色の結果、尿細管細胞質のL-FABPは再灌流後、管腔内へ速やかに排出されることが示された(図A-3)。
A-1,A-2,A-3 の結果より、尿中L-FABPと尿細管周囲の微小循環障害(虚血)は正相関する。